河内製作所 小さなことを、ていねいに、じっくりと、考えていく
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第39話 『 誰何すいか西瓜スイカ -6- 』

「オレ、変なこといいました? スイカをデカくすればいいんすよね?」
「セイジくん……いまは冗談をいわないほうが……」
「うぉ! まもるさん、なんで埋まってんすか?」
まもるさん、まだ埋没してたのか。
「冗談じゃないっすよ。大学の知り合いにその手の研究してるヤツがいるんで」
「セイジくん、大学生だったの!?」
まもるさんが疑うような目つきになった。
珍しい。
「いや、オレ、こう見えて頭いいんすよ」
笑えばいいのか、叱ればいいのか。
半袖、短パン、サンダルでヒマラヤへ登ろうとし、新手のテレポーテーション詐欺にだまされた男。なにをもって頭脳明晰であると信じればいいのだろう。
「ちょっと待ってください。聞いてみます」
こちらの葛藤など知るよしもなく、セイジは、少し離れた場所へ移動し、右耳に右手を当てた。
「うっす、あ、オレ。久しぶり、え? あ、ああ…あ、ヒマラヤ? あぁ! うんうんうん。……あれね……あれは感動なんてもんじゃなかったわ。オレ、気づいたら泣いててよー。いや、マジだってマジマジ」
「ねえ、セイジ、いま嘘ついて……」
背中越しに声をかけると、セイジは振り向き、左手をぶんぶん振った。
「わかってるって、うん、今度ちゃんと送るから。うん。うん? 高山植物? あ、もちろんもちろんもちろん。約束だから、あたりまえだろ。ところでさ、オマエ、植物ホルモンの促進とかいう研究してたよね? そうそう、あれをさ……、うん、データ? imaGe? よくわかんないけど送ってくんないかな? なんでって? ちょっとスイカを育てたいんだよ」
今度は左手で、髪を耳にかき上げた。
「え? いま? いや、ちょっと足止め食っちゃって、どこって? ……税関だよ税関。え? あるんだよ税関。テレポーテーションにも。いやいやいや、来なくていい、来なくていいよ! とりあえず、ちょっと急ぎだから、データよろしく。それじゃあまた連絡するわ、おう、おう、おう……」
セイジが小さく息を吐いた。
「バッチリっす!」
「いや……かなり嘘ついてたよね?」
「あれ、聞こえてました? いや、共同研究ってことでヒマラヤ行く金だしてもらったヤツなんで少し気まずくて……おっ! 来た来た。届きましたよデータ」
「データ?」
問いかけると、セイジは小刻みにうなずきながら周囲を見渡した。得意げな顔が腹ただしい。
「生長促進ライトは、植物のホルモンを活性化させるために、光の量、波長、照射時間を組み合わせ、肥料や水の配合で複合かつ総合的なケアで急激に生長させる……って、書いてありますね」
「よくわかんないんだけど、つまり?」
「いや、オレも正直専門外なんで。まあ、ようは、このデータをimaGeに取り込んで操作すれば、普通のLED電球とかでも生長促進ライトの替わりが作れるみたいっすね」
「せ、セイジくんそれすごくない? い、い、イナサクさん! ボクに種をください!」
「でもよ、それは手仕事じゃねえな」
「……でも、ライトは手作りだから手仕事だと思います! おねがいします!」
まもるさんは、地中で精一杯頭を下げているようだった。
「……まあ……確かに理屈は通るか……。仕方ねえ。特別だ。セイジ、そのライト作れ」
「うっす!」
「まもると、ハルノキはそのライト使って、スイカの世話だ」
「はい!」
まもるさんの返事が響いた。
嘘から出たまこと
埋没式土下座が効果を発揮したのだろうか。

4日間ずっとスイカの世話を続けている。
種は、蔵の中に保管されていた“紅ノ長べにのおさ”が選ばれ、番長さんの畑の空白の場所へ埋められた。
スイカひとつ分のスペースが黒い布で覆われ、袋の中には、首を突っ込むように“セイジ式生長促進ライト”が差し込まれている。
黒い布で覆う理由はセイジいわく「光量の調整がけっこうシビアなんで、日光を通さないような覆いが必要、らしい」ということだ。
ライトで照らす以外に、1時間おきに肥料と水を撒く必要があるから、まもるさんと、交代で番長さんの来村が予定されている今日までの4日間、1度もさぼらずに作業を繰り返してきた。
そして、7月21日。
今日からヴァーチャル実家夏休みプランが開始される。つまりは、“耕す!番長”さんが竜良村へやってくる。

「それじゃあ、あけるっす!」
こんなに早い時間からセイジが動いている姿をみたのはこの1週間で初めてだった。
午前6時、太陽がまだ本気を出しきっていない早朝は夏とはいえ少し肌寒い。
それなのに、セイジはニュー・トリップに現れたときと同じ半袖に短パンの姿だった。
1番畑には、“紅ノ長”の状態を確認するため関係者が招集されていた。
“セイジ式生長促進ライト”を取り除き、覆っていた布にセイジが手をかける。
「さって、どのくらいでっかくなってますかね、いきま……あ、でもこれ、デカくなりすぎてたら戻せないっすよ」
「いまはそんな冗談はいらん」
真顔でみつめているイナサクさんに冗談をいえるほど、テンションが高いのか。
「す、すません。それじゃ改めて、いきますよ、そっれ、どーん!」
身を乗り出して覗き込むと、土の中からは、若々しい、芽がひょっこりと顔を出していた。
芽が出ているだけだった。
芽だけ。
セイジも袋を手にしたまま、じっとみつめる。
芽を。
「や、や、や、や、や、やり、やりましたね! こんな、短期間で芽、出てますよ」
「セイジ。失敗か?」
冷淡な声だった。セイジのテンションが真夏ならば、イナサクさんの問いかけは真冬のようだ。
「いや、あれっす。あれっす」
「それとも最後に仕上げの行程があるのか?」
「ちょっ、ちょと確認してみます」
「そうか。なるべく早くしたほうがいいぞ」
妙に優しい調子に変化した、イナサクさんの声は、一帯を強烈な恐怖で支配しはじめていた。
セイジは笑顔で右手が震えている。
「あ、オレだよ、こないだのデータさ、あれ、間違ってないよな? ほら、スイカの……え!? メロン!? はぁ? オマエ、オレのこと殺す気かよ? いやいやいやいま、そういうのいらねえんだよ。いや……」
セイジが口元を隠すような仕草をした。じっと右手を耳に押し当てて相手の声を聞いているようだ。やがて、頷きながら戻ってきた。
「説明します!」
「聞こう。いってみろ」
「生長促進するのって、結局、作物の種類によって、光量とかの調整がちがって、まあ、そのスイカにはスイカの光が必要で」
聞いたことのないような早口だった。
「失敗だな?」
「いや、この光はそのメロンを育てるための光になっていて」
「失敗だよな?」
「……はい」
村のみんなが、作った輪が少し広がった。元禄さんまでもが、そっと後ずさりしている。
せ、セイジが危ない。
「すみません、すみません、ホントに、ホントにすみません」
イナサクさんは無言でセイジを見据えている。そのまま、セイジを掴んで吊し上げるのではないか、止めなければだとは思うが、恐怖しかない。
「仕方ねえ……腹くくるか。セイジ……ここまでよくやった」

<ガガッ……>

セイジが驚きの声を上げる直前に、エアロスピーカーからノイズが走った。こんなタイミングで、緊急招集エマージェンシーコールか。

<みなさん! おはようございます! ラジオ体操の時間になりました! 元気に体を動かして今日も一日元気よく過ごしましょう! それでははじめまーす>

「時間だな」
イナサクさんが小さく息をすった。
「おし! 全員持ち場につけ!」
「ど、ど、どうしたんですか?」
「夏休みプラン開始の合図だ。“帰省かえって”くるんだよ、番長さんたちが」
「あ! あれ? なんかきますぅ!」
まもるさんが指さした方向から、車体が細長く伸びきった黒いホーバーカーが、近づいてきた。
普通のクルマを3台重ねたくらいの高さで浮遊している。
普通のホバーカーは最低地上浮浪度ミニマムフロートが地上から、数十センチくらいが普通で、それ以上の浮浪度フロートになれば、それだけ高性能ハイスペックなエーデル・フロートが必要だし、維持費もかかるし、税金も上がる。
つまり、あんな高度で走るホバーカーは庶民の持ち物ではない。
したがって、あのクルマには、上空市民が乗っていると考えるのが自然だろう。
「まもる、セイジ、ハルノキ、ここに並べ。スイカの謝罪、先にすませちまうぞ」
「イナサクさん、番長さんってどんな、方なんですか?」
「ハルノキ。オレも会ったことはない」
「……そ、それじゃあ、自分たちどうすればいいんですか……」
「きっちり謝るしかねえな」
下半身から力が抜けていく。
「せ、セイジ、唇、青くない?」
「あ、あ、あ、だ、大丈夫っす」
完全に精気を失っている。
まもるさんは……、あれ?
「まもるさんは?」
「おーい、ハルノキくん!」
まもるさんが、手にスコップを持って、走ってきた。
「早く、早く、穴掘って!」
スコップが差しだされた。
「土下座の準備しないと!」
「いや、まもるさん、もう、間に合わないでしょ、それ」
誰も、笑う余裕なんてなかった。

古来、未知なる異星人と遭遇する映画が人気だったと聞いたことがある。
いつの時代も未知なる物は、人を惹きつけるんだと思う。
映画のような異星人は発見されていない。
でも、天より舞い降りる“ホバーリムジン”に乗る上空市民ならば、もはや異星人と同等の扱いでよいのではないだろうか。
ゆっくりと降りてきた。
まもるさんの入る穴を掘る間もなく。
振り向いたら、目の前に浮いていた。
巨大で壮大なクルマ。光を呑み込む闇のような黒。左右を見渡すと、イナサクさん、元禄さん、畑担当の富阿さん、清一さん、瀬古さん、まもるさん、セイジ、みんなが一列に並んで直立していた。イナサクさんも緊張した表情だった。
膝がすこしずつわななきはじめた。
まともに立とうとするが、視界が揺れる。
「みんな、とりあえず。笑え。実家に帰ってきた孫を迎えるような表情かおだ」
イナサクさんの声に、一同がそれとなく頷く。
リムジンが地上に降りたつ。
なめらかに運転席のドアが開き、中から恰幅のいい1人の男性が現れた。
夏の空の下、律儀に着込まれたタキシード。
「まもる。行くぞ」
イナサクさんの合図で、まもるさんは勢いよく駆け出した。
「申し訳ございませぇぇぇん!」
しかし、まもるさんよりも早く、タキシード姿の男性が地面に着地し、大きな声で叫んだ。
「まことに申し訳ございませぇぇぇん」
まもるさんは、謝罪のタイミングを逃し、老紳士の目の前に仁王立ちになっていた。
「わたくし、本日からお世話になる予定であった、1番畑の“耕す番長”の執事、渡部わたべと申します。誠に、誠に、申し訳ございません。主の奥様が今朝、急に産気付かれまして、どうしても都合がつかなくなり、執事のわたくしがうかがわせていただきました……申し訳ござ……みなさま……どうされましたか?」
執事側もこちら側も、全員が口をあけたまま、固まってしまった。

「そうでしたか、ははは、そんなことが」
渡部さんは笑っていたが、屋敷の大広間に移動した一同は、どうしてよいかわからずおろおろしていた。
「申し訳ありませぇん」
まもるさんが、スイカを食べたことを詫び、畳に額をこすりつけた。
「いえいえ。そんな、謝るのはわたくしども方でございます」
渡部さんも、負けないくらい丁寧なお辞儀を返してきた。
「渡部さん。やめてください。こっちの手違いで、スイカだめにしちまったんですから」
イナサクさんも、まもるさんの横に座り、すっと頭を下げる。
「おやめください。わたくしの主は、そのようなことでお怒りにはなりません。むしろ、みなさんでスイカをお召し上がりになっていただくようにと、言付けを預かって参りました」
「そうでしたか……お心遣い痛み入ります」
「もう、やめましょう。今日は、主にとってめでたい日でございます」
「はい」
「それから、主が次こそは必ずこちらにお伺いすると、そのときは家族“5”人で予約をお願いしたいと申しておりました」
「はい。しかと承ります。そして、心よりお祝い申し上げます」
イナサクさんがさらに深く、床に伏せた。

「ボク! 一気に、いきまーす!」
「いいぞ、まもる!」
「ほほ、負けませんよ」
「渡部さんも、はええな!」
いつのまにか縁側で、スイカの早食い大会がはじまっていた。
「元気っすよねーみんな」
なんとなく輪から離れてみていると、セイジがとなりに座りスイカを差しだしてくれた。
「なんであんなにスイカの早食いに燃えてんすかね」
元禄さんや渡部さんにまもるさん、うえの世代の人達が、スイカをむさぼるように食べていた。
「わかんないけど、スイカは、ああやって食べるのが面白いんだって、まもるさんがいってたよ」
「でも確かに、このスイカ、うめーっすよね。みずみずしくて、甘いっすよね」
「そりゃあ、そうだろ」
イナサクさんも、スイカを持って隣に座った。
「汗水流して一生懸命つくったものがうまくなけりゃ、食いもんなんて全部工場で作った方がいいだろ」
大きな口を開き、紅いスイカにかぶりつく。
「こうやって、飽きるほどうまいもの食ってられるのは、幸せなことだよな」
イナサクさんはそういって、無心でスイカにかぶりつきはじめた。
1番スイカを早く食べられるのは、この人なんだろうなと思った──

そして、渡部さんは村人全員に見送られてホバーリムジンで悠然と走り去っていった。

「一時はどうなることかと思ったが、なんとかなったな」
「んだんだ! オレ、あの車みたとき、もうだめだとおもったもん」
「あれは、イカツかったよな」
「さて、仕事に戻るかーうちの畑のオーナー、また草むしりはじめたからよ」
見送りをおえたみんなは、口々に話をしながら、それぞれの畑へ向かっていった。
「おまえらは、どうするんだ?」
残った自分たち3人に向かって、イナサクさんがいった。
「イナサクさん、オレ、この村に残ったらまずいっすかね」
セイジが、神妙な顔で切り出した。
「なに? オマエが?」
「いや、オレ、大学に帰りづらくなっちゃって、あの、一応機械とかいじったりはできるんで、手伝えるとおもうんすよ」
「なるほどな……」
このままでは、セイジに先を越されてしまう。
「イナサクさん! じ、自分も、自分もこの村に残りたいです!」
「ハルノキも?」
「え、は、ハルノキくん? だって……」
「いや、まもるさん。オレ、気づいたんです。もっと、もっと、村の人の手伝いしたいって」
「そんなに、いっぺんに人は増やせねえな」
「そしたら、オレの方がいいっすよきっと」
「セイジは、大学あるじゃないか」
「だから、ほら、ヒマラヤのデータ取れてないし、気まずいから、ほとぼり冷めるまでは帰れないんすよ、大学は遠隔VR授業でなんとかなるんで」
「じ、自分は、大学も終わってますから、手伝える時間、自分の方が長いと思います!」
「そうか……よし。わかった」
セイジと目があった。
「セイジ、オマエはこの村に残れ。ハルノキ、おまえとまもるは、出て行け」
「な、な、なんで、ですか!」
「なんでかってか。……ハルノキ、それじゃ聞くがよ、オマエはなにができるんだ? この先TA-GOに関わるとしてオマエなにができる?」
「そ、それは自分にだって……」
………なにがある? 競馬、なんていえるほど、勝っていない。農作業でみたらどうだ。いちどでも満足に仕事をこなせたことがあったか? きびきび動き回る村の人達と同じことができるか? 胸を張れること……飛行機にすら乗れず、チクリンに迷惑をかけて、履歴書を書いても、つまらないといわれてしまう、平凡な半生。自分には他人に誇れることがいままであっただろうか……?
「なにがある?」
「……な、ないかもしれません……」
「TA-GOはじいちゃんちゃんやばあちゃん達のためにある。なにも持ってねえやつの食い扶持はない」
うつむいてしまった。
「セイジは、まあ、ちっとは役に立つかもしれねえな」
「あ、ありがとうございます!」
「ハルノキ、泣いてんじゃねえよ」
「だ、だって。だって、自分も」
「……まもる」
「は、はぃ!」
後ろからまもるさんの声がした。
「ハルノキとおまえの荷物まとめてこい」
「ど、どうしてですか?」
「これから、街まで野菜届けにいく。ついでにオマエらも送ってやる」
「で、でもハルノキくんが……」
「いいから、はやくしろ」

まもるさんが、戻ってくるとすぐにイナサクさんは小型トラックの助手席側のドアを開けた。
「乗れ」
「いやです。自分、村に残りたいです」
「いいから早く乗れ。まもるは、荷台だ。荷物見張りしてろ」
「はい!」
まもるさんは、ホバーベルトで浮かび荷台に乗り込んだ。
「はやくしろ!」
胸元を掴まれ、強引に助手席に押し込まれドアが閉められた。
運転席に乗り込んだイナサクさんは、即座にエンジンを掛けた。
タイヤがあるクルマ独特の揺れが全身を揺らしはじめる。
村が少しずつ、遠くなっていく。
「悔しいか? ハルノキ」
なにも言い返せない。いや、声を出したくなかった。
なぜ、セイジはよくて、自分はだめなんだ。
「……ふてくされてんな。どうせ、なんでセイジはよくて自分はだめなのか? なんて考えてんだろ?」
図星だ。
「オマエ上空都市守衛官になりてえんだろ?」
「な、なんで……」
声が震えた。
「まもるに聞いたよ。そのために旅してたんだろ? その旅はよ、途中で放り投げていいもんなのか?」
チクリンの顔が頭をよぎった。
「……違います、でもいまは……」
「いまは、村の役に立ちたいってんだろ」
「それじゃ、だめなんですか?」
「だめだ。セイジはな、まだ、なんにも目標もみえてねえ。ふらふらしてるどーしようもねえヤツだ。でもな、オマエは違う」
イナサクさんがタバコに火をつけた。
「オマエも、まあ、人に流されて浮ついてるヤツだとは思うが、それでも、目的があって旅にでた。そんな中途半端な状態で他のことに手をだしたら、全部だめになる。だから、追い出す。この村になんていさせねえ。出て行け。自分のやるべき事にむかってよ、どんどん進んで行け。そしてよ、村のことなんて忘れちまえ」
「でも、そんな半端な自分はどうやったら一人前になれるんすか?」
「聞くんじゃねえよ。考えろ。人間はな、自分の頭で考えて考えて、考えぬいた挙げ句、失敗する。それで今度こそ、今度こそっていいながら、どうしようもねえくらいに失敗を繰り返す。そして、初めて実感するんだ。痛みや悩み、そして、成功できたときの喜びをな。それが経験だ。オマエには経験が足りねえ。もっと失敗しろ。もっともっとやらかしてこい。地上したでも、上空うえでもどうしようもねえくらいにな……それでよ……」
タバコの煙が車内に舞った。
「オレが腹抱えて笑えるくれえ、おもしれ失敗話ができたら来いよ。この村に。遊びによ」
頷いた。
この人へ精一杯の感謝を伝えたくて。
顔を上げて目を開くとおっきな、おっきな夕日が滲んでみえた──

次回 02月23日掲載予定 
『 アシスタント・プログラム 』へつづく







「いらっしゃいませ。ニュー・トリップへようこそ!」
「……こちらで、テレポーテーションが出来るとうかがったのですが……」
「はい、はい。もちろん承っております。お客様はおひとり様ですか? お名前をおうかがいしてよろしいでしょうか?」
「わたくし、戸北リョウスケと申します」
「トキタ様でございますね、それでは先にお待ちの方が数名おりますので、待合室でお待ちください。料金のご説明と受付させていただきまして、順番にお呼びいたしますから」
「ありがとうございます。心して待たせていただきます」
「1名様、ご案内お願いしまぁ~す!」


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