河内製作所 小さなことを、ていねいに、じっくりと、考えていく
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第59話『 いちばんぼし 05 』

「ぅっ、うむんっ!?」
まもるさんが奇妙な声を漏らした。
相変わらず“うむ”の使い方は間違えているが、驚く気持ちには同感だ。
なんだこの列車は?
いや、列車なのか?
白、黄、赤、青、緑、紫、様々な色の光源が作り出した電飾が光の塊となり、暗闇の中をゆっくりと静かに近づいてくる。
少し浮遊しているのだろう。
いちばんぼしは、金属的で高音域の浮遊音を微かに漂わせ、ホームはつかみ所の無い宇宙空間のような雰囲気になっていた。
「知井様、桜様、いちばんぼしがまもなくこの地点へ到着いたします」
電飾に照らされシルエットになった駅員が、右手で、ホームを指し示しているのがわかった。
「う、うむぅ……なんだか想像と違うねえ」
まもるさんは、駅員にステッキの杖先を向けた。その使い方は失礼だろう。
「正真正銘、いちばんぼしにございます。電飾に使用されている電球ひとつひとつ、細部にいたるまで職人が丹念に仕上げております」
「い、いや、列車に電飾って……けっこうムチャな選択なんじゃ……」
「いちばんぼしの走行速度だからこそ実現できたデコレーションでございます。従来の高速鉄道であれば、外観にこれほど細かい細工を施すことは不可能でございます」
「ひ、必要性のはなしなんですけど……」
プッッシュゥゥゥウゥ──
いちばんぼしがホームに到着すると、盛大な排気音を響かせて着地した。
「さあ、おふたりとも、先頭車両の前で記念撮影をいたしましょう」
「うむ、そうだね」
「いや、いいです。早く乗りましょう」
「なにをいっているんだ! こういうときに記念撮影しないでどうするんだぃ!」
まもるさんがステッキの杖先をこちらに向けてきた。指をさされるよりも数倍イライラする。払いのけてやりたい衝動に駆られたが、自分でも驚くほど自然に、10年くらい仕えた主に対するような言葉がでる。
「かしこまりました」
「うむぅ。それじゃあ、キミ、頼むよ」
駅員は小さく返事を返し、素早く正面に回り込んできた。
「それでは、お二人はこちらへ立って、わたくしの方を向いてください」
駅員は右手を握るようにして、口元に当てた。

『ただいまぁ、ホーム上で記念撮影をおこなっております。係員は移動にご注意ください』

ホーム内にアナウンスが流れた。
どうやら、あの右手の動きは、放送スピーカーと連動させてアナウンスを流すジェスチャーのようだ。

『ただいまぁ、ホーム上で記念撮影をおこなっております。係員は移動にご注意ください』

「失礼、お待たせいたしました」
「うむっ」
「はい! それではいきま──」
駅員が“す”と言い終わる前に、ストロボのような閃光が空中で光った。
「申し訳ございません、もう1枚撮らせていただきます」
「なんだい、失敗かね? 頼むよぉキミ。ぶふふふ」
まもるさんの無礼な笑い声にも嫌な顔ひとつみせず、駅員は笑顔で左手を垂直に伸ばしていた。
「はぁーい。気を取り直してもう1枚いきまーす」





先頭車両のほうで、ストロボが発光した。
「よし! 記念撮影はじまったぞ! 全員乗り込め! 急げ!」
押し殺してはいるが、良く通る声だった。
「そこ! なにしてんだよ早くしろっ!」
「ま、まだ、マイトさんが来てないんです」
「マイトぉ!? あのバカ、なにしてんだよ!?」
「昨日はだいぶ飲んでたもんなぁアイツ」
「今日は“猛打賞”とったからな! ってゴキゲンだったからななぁ、アイツ。ガハハハ」
「“猛打賞”とっても、欠勤しちゃったら意味ねーよなぁ」
「と、とにかく、今いるメンバーだけでもさっさと乗り込め!」
「ま、マイトさんは?」
「知らん。どうせまた追いついてくるだろ、いちばんぼしが出ちまうから頼む。早く乗ってくれ!」
最後は懇願するように切羽詰まった声に促され、自転車を抱えたメンバーがぞろぞろと、いちばんぼしへ乗り込みはじめた。

いちばんぼしの車両上部には先頭車両の正面にあったのと同じような銀メッキが施された看板がホーム側に向けて取り付けられていた。
先頭の車両から『先頭車両』『一級車両』『一等車両』『ファーストクラス』と車両ごとに違う名前の看板になっているようだ。
「お二人が乗車される車両は、こちらの『最高級車両』でございます」
案内されたのは先頭から5車両目、車両の上部にはたしかに『最高級車両』と筆文字で書かれたハデな看板が電飾に縁取られていた。
「うむ。最高級かこれはいいねぇ」
「でも他もぜんぶそんな感じの名前ばっかりありましたよね?」
「いちばんぼしの車両名はすべて“1番”でなくてはなりませんので」
“1番”を謳う物がこれだけ並んだらまさに“矛盾”じゃないか。
古文だったか漢文だったか、とにかくどこかでならった故事成語の話が思い出される。
「そろそろ出発となります。ご乗車ください」
駅員が乗車口の脇にある小さな枠に手を添えていた。
「こちらに切符をかざしていただければドアを開けることができますので」
「うむ!」
まもるさんが、背筋を伸ばしてアクティブジェケットの襟を正した。
その動作に意味があるとは思えない。
「それじゃあ、いこうかハルノキくん」
切符をかざすと、小さな電子音がしてドアがゆっくりと開いた。
「いってらっしゃいませ。よい旅をごゆりと」
駅員はかしこまった姿勢で深々と頭を下げたまま、ドアがしまってもその体勢を崩そうとはしなかった。
「ハルノキくん。みてごらん、この切符すごいねぇ」
まもるさんは、見送ってくれる駅員を振り返ろうともせず、切符を眺めている。
「な、なんでしょうか」
「切符の中で列車が動き出したよ」
切符を取り出してみると、“いちばんぼし”とだけ書かれていたプレートが変化していた。
光の尻尾を伸びやかにひろげた車両があらわれ、いちばんぼしのロゴマークがギラギラと輝いている。
「もしかしてれ、列車が動き出したってことですか?」
「うむぅ、発車したみたいだねぇ」
乗車ドアの小窓からホームをみると、駅員が御辞儀をしている位置がさっきより少しだけ後方に動いていた。いつのまにか発車していたようだ。
振動や走行音は聞こえない。
もういちど車窓を凝視した。たしかに風景は動いている。発車したようだ。
「スピード、遅すぎませんか?」
ヘタをすると歩く速度よりも遅い。
「これが、優雅というものではないかねハルノキくん。時は金なり。ボクは金持ち。時間は贅沢に使わなければね、ぶふふふふ」
まもるさんが、上機嫌になった様子でステッキを床にひとつきした。
「さて、ボクたちの部屋へ案内してくれるかな、ハルノキくん。うむんっ?」
「い、いや、どこかわかりませんけど」
駅員がいなくなり再び、お付きの人の役割がまわってきたということか。
「案内係とかいるんじゃないですか? 探してみましょう」
乗降デッキの扉を開けると重厚な造りの廊下が続いていた。どこかから木の香りが漂ってきそうな木製のドアが並んでいる。
「なかなか良い雰囲気じゃないか」
ステッキを床に突きながらまもるさんが歩いて行く。
「あ、あのぉ、お客様」
振り返ると、車掌らしき制服をきた若い男が立っていた。
「なにかお困りでしょうか?」
まるで洒落たカフェのギャルソンのような、パリッと洗練されたモノトーンの制服だ。
胸元には『アテンダー 伊藤』と名札をつけている。
「自分の部屋がわからないんですが……」
「失礼ですが、乗車券を拝見できますか?」
アテンダーは、こちらには目もくれずにまもるさんからはうやうやしく、切符を受け取った。
「ええと、最高級車両A号室の知井様と桜様でございますね。お部屋までご案内いたします」
「うむ。頼むよ」
ステッキを持ったまま後ろ手を組んだまもるさんが頷いた。
気のせいだろうか、この人の振る舞い方がだんだん本物の金持ちのようにみえてきた。
「お客様のお部屋は、こちらになります」
重たそうな木製のドアを開くと、宙づりになったシャンデリアがみえた。車窓に向かって置かれたソファ、奥にはもうひとつ扉がある。
ほ、本気で豪華な部屋じゃないか。
「なにかございましたらお呼び着けください。よろしければ車内のご案内もいたしますので」
「うむ」
「それでは、良い旅をごゆるりと」
立礼を残してアテンダーはそっと扉を閉じた。
「ふむそれじゃあ、ハルノキくん、なにをして遊ぼうか」
「え!?」
「列車の旅にはいろいろあるじゃないか、トランプとかなにかゲームなんかは用意していないのかね?」
「してないっす」
あったとしても、まもるさんと二人でトランプをして楽しめるとは思えないが。
「う、うむむそれじゃあ、どうするんだい」
「ま、まあ、外の景色みてみましょうよ。もうすぐ駅の地下から地上に出るみたいですから」
車窓には『まもなく地上へ出ます』という電飾文字が繰り返し流れていた。





「蒔田さん、いちばんぼし出発したみたいですよ。……蒔田さん?」
「う、ううん」
助手席で蒔田は軽いいびきを立てていた。
「なに寝てるんですか!? 起きてくださいよ」
「う? なんだ来たか!?」
「いや、まだですけど。遅延情報はでていないんで、そろそろかと」
「それなら、まだだ」
「だ、だって、駅からあのトンネルなんてすぐじゃないですか?」
しかし、蒔田は焦る様子もなく目を擦る。
「江田くん。いちばんぼしが、遅速の彗星と呼ばれているのは知っているか?」
「はい。調べましたよちゃんと」
「あの列車はとんでもなく“のろい”。だからみんな集まって来てるんだ」
「……話がみえないんですが。それにさっき仕入れた後ろの荷物、なんなんですか?」
後部座席には、段ボールが積んである。
「まあ今にわかるよ。人が仕入れない商品のなかから、表面化していない抽象的な欲求ニーズを見つけ出し、その先にある具体的な欲求ウォンツを提供するのがビジネスの基本だ」
「こ、この間、アクティブジェケットをみつけた時も同じようなこといってましたよね?」
「時間はかかった! しかし、あれもすべて利益に変わっただろう?」
「そ、それはそうですが、この荷物とどう関係があるんですか?」
「鈍いなぁ、江田くん」
蒔田が不敵な笑みを浮かべたとき、車内にアラーム音が響いた。
「ん? そろそろか」
「今度はなんですか?」
「いちばんぼしだ。列車の速度と駅からの距離を計算して割り出した時間をアラームしておいたんだ。ふふふ、これが先を読むということだよ」
「いや、他の車もみんなトンネルの方に動きはじめてますけど……」
線路脇に並んでいたホバーカーやホバーバイクの一団はトンネルの方へ集まりはじめていた。
「な、なんでそれを早くいわないんだ!」
「蒔田さん、喋ってたから」
遠距離測定用のimaGeレンズを覗き込んだ。
「車だしますか?」
「……いや、焦るな。まだだ……まだときではない。江田くん。今のうちに作戦を伝えておく」
「作戦なんてあったんですか?」

「うむー。なかなか外に出ないねぇ」
まもるさんが足をぶらぶらさせながら、窓の外を眺めていた。
「なんだか飽きてきたよ。この列車遅すぎるんじゃないか」
さっきまで優雅な時間といっていたのは誰だ。
しかし、たしかに出発してから10分ほど経っているが、窓を覗き込めば列車の後方にまだホームがみえるくらいの距離しか進んでいない。
あの駅員さんはまだ頭を下げたままなんじゃないだろうか。
「ちょっと遅すぎるなあ、さっきの車掌さんを呼んで説明してもらおう」
まもるさんが、パンパンっと手を打った。
「そ、そんな時代劇みたいな呼び方したって、誰も来ませんよ」
「そこに書いてあるじゃないか」
まもるさんがステッキで、磨き上げられたテーブルのうえを指した。
小さな立て札が置かれていた。

『御用の際はお手を叩いてお呼びください』

「お呼びでしょうか?」
アテンダーが本当にあらわれた。
「なかなか、気持ちのいいジェスチャーだね。ぶふふふ」
「いかがなされましたか、知井様」
「うむ。まだ外には出ないのかな? ボクはね早くお外の景色がみたいんだよ。うむ」
「申し訳ございません。もうまもなく、トンネル出口へ到達いたしますので、いましばらくのご辛抱をお願いいたします」
「うむぅ、そうか。この列車は噂の通り、本当に遅いんだねぇ」
「はい。みなさまに少しでも長くいちばんぼしを楽しんで頂くためでございます。もちろん、皆様を退屈させぬよう、様々な催しものをご用意しております。また、当列車は消費電力を極限まで抑えて走行するきわめてエコな乗り物でございます。何卒ご容赦くださいますようお願いいたします」
「うむうむ、エコか、エコならば仕方がない」
「あ、あのう、もしかしてずーっとこの速度で走るんですか?」
この調子では、ヘタしたらダンスコンテストに間に合わないのではないだろうか。
「いいえ、もちろん、各所でスピードのコントロールが行われます。例えば、海峡を渡る際など海上を走行する場合は超高速運行となります」
アテンダーは誇らしげな表情で答えた。
「まもなく、トンネルを抜けるようでございますね」
「うむ。いよいよかね」
車窓に次第に明るい光が射し込んできた。
だんだんと見えてきた外の景色には、おびただしいクルマの並んでいた。
みなクルマから身を乗り出し、まるで、動物園の檻にむらがるかのように、こちらに向けて、手を振ったり、声をかけているようにみえた。
「声援を送ってくれているのかねあれは」
「あちらは、行商の業者の皆さんでございますね。ああやっていちばんぼしを熱心に追いかけてくるみなさまをフォロワーと呼びます。窓を開ければ商品の購入も可能でございますよ」
「どれどれ」
まもるさんが、スライド式の窓を引き下げると、夏の熱風と共に活気のある空気が吹き込んできた。
「純金! 純金! ネックレス!」
「そこの洒落たシャツのだんな!」
「記念に名前も彫ります!」
「みてってーみってってー!」
みな口々に、声をあげ手には何かしらの商品を掲げている。
「旅の記念にいかがすかー! 絵はがきありますよー」
「えー、メロン、メロン、冷たく冷えたメロンはいかがでしょうか」
中には、手押しの荷車まで混じっている。
「メロン、ひとつもらおうか」
隣の車両の方から声がかかった。
「へい! ありがんとりゃっす!」
荷車の荷台からもうひとり男が現れ、器用に商品とお金を交換していた。
「な、なんか、たくましいっすね、みなさん」
「地元で取れた果物などを持ち寄る方も多いので、旅慣れた方ほどお買い求めになりますね」
「そうなのかね? それならボクもなにか買おうじゃないか……」





「やっぱりもっと近づいた方が」
「さっきもいっただろ? トンネルの出口付近は業者が殺到する。だから少し間隔をあけたこの場所で待機するだ。ここなら速度も出しやすい」
周囲はたしかに建物のない、直線の道路が線路と平行している開けた場所だった。
「な、なるほど。ここなら、直線の先頭になりますね!」
「そうだろう。よし! 車を西の方に向けてスタンバイだ!」
「はい!」
ホバーカーのエンジンを立ち上げ車体を線路の進行方向へ向けた。
手動運転マニュアルドライブに切り替えといてくれ、小刻みな制御が必要だからな」
「うっす」
ギアをHホバリングにいれたままで、アクセルを吹かすと、排気音と浮遊音が高鳴った。
「きたぞ! いちばんぼしだ!」
ルームミラー越しにトンネルをみると、小さな光が一点だけみえた。まるで、夕方東の空にあらわれる金星のようだ。
後方では、大混乱が起きていた。
トンネルの暗がりに見える光が大きくなってきている。
「なんすかあれ? めっちゃ光ってますね」
「いいから集中しろ」
「いや、でもぜんぜん遅いですよ。トンネルの出口で横にびったりつかれてますけど」
「まあここまでは計算通りだ」
蒔田は窓をあけ身を乗り出した。
「よし、ちょっとずつ近づいてくるぞ、そろそろスタートだ!」
ミラーを確認すると、のろのろと、いちばんぼしが近づいてきていた。
「速すぎるもっとスピードを落とすんだ」
「は、はい!」
ギアをローに切り替えアクセルを離す。
後ろからは、いちばんぼしと、平行して走るホバーカーの大群が一緒に迫ってくる。
「よし! そのままだ左右に注意して後方のホバーカーを妨害しながら列車と並んで走れ!」

「トランプはあるかな?」
まもるさんが声をかけると、業者たちが一瞬動きをとめた。
「うむん? トランプを持っている人はいないのかな?」
誰も返事をしない。
「なんだね君たち、旅にはトランプが必要じゃないか」
「トランプはないけど、純金ならあります!」
「こっちはダイヤとプラチナがあります!」
「ボクが欲しいのはトランプなんだ!」
まもるさんが、ステッキを振りかざして叫んだ。なんだ、このやり取りは。
「はーい! トランプ、ありまーす!」
先頭車両のほうから大声を張り上げながら、バックしてくるクルマがいた。
「あ、あれ! 蒔田アクティブ洋品店の店主じゃないですか!」
「うむ?」
「旦那! ジャケットお似合いですね! トランプですよね、やっぱり!」
「うむ! キミかね! トランプはいくらだい?」
「2万円になります!」
「うむうむ、なかなか良心的な値段じゃないか、ハルノキくん受け取ってきてくれるかな?」
「は、はあ? ムリっす、列車、動いてるんですよ!?」
蒔田のクルマと列車の間には他のホバーカーが何列にも連なっている。
「ど、どうやってあそこまで行くんですか?」
「うーむ。ボクのホバーベルトを使っても構わないよ」
そういえば、この人ホバーベルトを巻いていない。
「頼むよ。お小遣いはずむから」
「か、かしこまりました」
「スイッチを捻って調節するだけだから、簡単だよ。がんばってくれたまえ」
まもるさんの鞄からホバーベルトを取り出して腰に巻き、まどから身体を出した。
な、なぜか、自分はこの人に逆らえなくなってきている。
スイッチを捻ると、身体がすーっと宙に浮き始め車両から浮かび出た。
「うまいじゃないかハルノキくん。小刻みにスイッチをいじってホバリングするんだ」
他の車両の窓には指をさして笑っている乗客がいた。なんだ、この見世物にでもなったような屈辱的な気分は。
「あ、アレ!?」
ホバリングしようとしてもうまく、浮力が調整できない。どんどん上空に身体が浮いていく。
ま、まずい。
た、高い! ムリだ!
パニックになりかけ、辺りをキョロキョロ見渡すと、いちばんぼしの後方に土煙が上がっていた。
「な、なんだ。自転車チャリ……!?」
大群の後方に1台の自転車がもの凄い勢いで迫ってくるのが見えた。
「うおりゃああああああああ」
乗っている男は雄叫びを上げながら、もの凄い形相でペダルを漕いできて、いちばんぼしの最後尾に追いついた。
そして線路へ近づきそのまま、翔んだ。
最後尾の影に着地したのだろうか、自転車と男の姿はみえなくなった。
「おおい! ハルノキくん、どこまで浮かんでいくんだい! 捕まってしまうよ。ぶふふふ」
しかし、いまは自分の安全を確保することが最優先事項だった。

次回 08月03日掲載予定 
『 いちばんぼし05 』へつづく

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