僕の朝は、人力電力短期稼働メンバーの確認作業からはじまる。
派遣会社から日々やってくるスタッフの数は年間、のべ千人以上。マイトくんや田坂さんのように正社員クラスの長い旅をつづけるスタッフから、1日だけ顔をみせてそれっきりになる短期スタッフまで様々。
期間は人それぞれだけど、この空間を共にしている間は、みんな人力電力のメンバーだ。
誰ひとりイヤな気分にならないで欲しい。
そう願いながら、その日のスタッフ名簿にかかれた名前を日当袋へ転記するのが僕の大切な役目。
「大南マイトくん、知井まもるさん……と……つぎは…………えっ!? え! え!? ええええええええ!」
「な、なんだよ、サル」
「し、獅雷さん! た、たいへんです!」
「だから、どうしたんだよ」
「あ、あ、あの! こ、これみてください!」
「……ア!? ああぁ!?」
口を開けたまま、獅雷さんが固まった。
「僕も、何度も確かめたんですが……」
「ま、マジか?」
「せ、性別に“女”って書いてありますよね!?」
「……人力電力に女……はじめてだな……」
最後尾にいる室津さんの呻きがクリアに聞きとれるくらい動力室が静まりかえっていた。
「おはようございますっ! はじめてこのお仕事をいたします! 白い浜の小さな波とかいて、
信じられない。
自己紹介をする小波ちゃんは、夏の太陽を身にまとったような、小麦色の肌をした小柄な女の子。肩よりも少し短い亜麻色のショートヘアと、大きくて、くりくりと周りをみわたす褐色の瞳が活発的な印象を与えてくる。
じ、人力電力に、お、女の子が来た。
「サルさん。わたしは、なにか夢でもみているんでしょうか」
マイトくんも呆然と目を細めて小波ちゃんを眺めていた。
「と、ということで、あの、その、なんだ、か、完全な新人さんがい、いらっしゃったから、お、おま、き、キミたち、しっかりサポートしてやってくれ」
獅雷さんも目が完全に泳いでいる。
いや、この部屋にいる男性、つまり全員が同じ状態だ。
「あ、あの獅雷さん! 質問よ、よろしいでしょうか!?」
田坂さんが挙手をした。
「なんだ、田坂……くん」
「そ、その、じょ、女性はやっぱり、発電量の少ない、ポ、ポジションがよいのではないでしょうか」
「そ、そうだな」
歓声と拍手がわきおこった。
「それなら、わたくしの隣のブースなどがうってつけではないでしょうか! こ、この部屋のエアコンへの電力供給がメインでございますので」
拍手がピタリと止む。
「なにを、い、いってるんだ……い。新人さんは、俺の正面で研修からはじめる予定にきまってん……いるじゃないか……」
言葉をかろうじて丁寧にとりつくろった獅雷さんが自分の真正面の席を指さしていた。
「し、獅雷さんの気が散ってしまってはいけませんので、こ、ここは現場に任せていただいた方がよいのではないでしょうか!」
こ、こんなピリついた雰囲気は、いちばんぼし最大の修羅場と呼ばれる、“ワープ”前にも感じたことがない。
「おはようございます!」
まもるさん!
助かった。獅雷さんもさすがに乗客の前で無様な姿は……。
「う、うむん? なんだか今日は、みんな怖い顔してるね!」
まもるさんが、いちもくさんに昨日と同じブースへと向かっていく。
い、いけない!
「ま、まもるさ……」
「獅雷さん! 今日もよろしくお願いします!」
どかっと、獅雷さんの目の前の空きブースに着座した。
「はぁ…お、お……う……」
獅雷さんがこちらをもの凄い形相で睨みつけてくる。
「うむん? どうしたの……あぁ! お、女の子がいるぅ!」
まもるさんが、小波ちゃんを遠慮なく指さす。
「は、はじめましてっ! 短い間ですけどよろしくお願いいたします!」
「う、うむん! よ、よかったらボクの隣においでよ!」
「い、いいんですかっ?」
「もちろん! かまわないよ!」
そっちが構わなくても、この部屋全体が構うんだよ! 全力で心の声をあげたが、届くはずもなく小波ちゃんは、まもるさんの隣のブースに着座した。
「よーし、今日も、もうだしょうとるぞぉ!」
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
「ホラ、ホラ、ホラ、ホラぁ! お、く、れ、て、る、!」
かれこれ、30分以上この無機質な音にあわせて肩を上下させている。
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
単調なリズムにあわせて肩の上げ下げをするだけなのに反応がついてこない。
「なんで、できねえんだ……ぐぅーん!」
「うぅぬぅーん!」
ナツメさんの繰り出す“バイブス”は、怒気にしっかりと反応しているというのに。
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
もしかすると、肩だけを動かそうとするからリズムが狂っているのかもしれない。
う、腕を一緒に動かせば……。
「ハルノキぃ! なに勝手に腕入れてんだよ! まだはぇーよ!」
指示にない動きは赦されないというのか。
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
集中が途切れた瞬間、リズムがずれて、ガッ゛が、蜂の大群みたいに襲いかかってくる。
「な、ナツメさん!」
「止まるな!」
「じ、自分! ホントにこんなことをしていて、ダンスが上手くなるんでしょうか?」
「ぁあぁっ!?」
獅子が外敵を威嚇するがごとき咆哮。
し、しかし、ここで引いたらあの、ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛に呑み込まれてしまう。
「り、
「やかましい! とにかく動け!」
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
痛みとともに、押し寄せてくるガッ゛の大群。か、か、肩でリズムを取るだけなのに……。
映像で何気なくみていた些細な動き達がいかに偉大だったのか文字通り痛感していた。
「まもるさんって、乗客さんなんですかっ!?」
「そうだよ! ボク、九州までいくんだぁ」
小波ちゃんの隣という、人力電力にとって、降ってわいたような幸運のブースに陣取る、まもるさんは突き刺さるような視線をものともせず無駄話に花を咲かせている。
「ま、まもるくん。ちょっと無駄話が多いんじゃないかな」
「すっ、すみません! 獅雷さん!」
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。それじゃまるで僕が怖い人みたいじゃないか」
「だ、だっていっつも……」
「いいから、頑張って発電しよう。小波ちゃんは大丈夫かい?」
「わ、わたしも、おしゃべりしてました。ごめんなさい」
「いやいや、慣れないうちは仕方ないよぉ」
「ぜんぜん、ペダルが動かなくて。これじゃ、だめですよね……」
炎天下に放り出したアイスみたいに、とろけた顔で獅雷さんが小波ちゃんに近づいていった。
「もっとこうやって太腿をまっすぐにするといいんだよ……」
「ひゃんっ!」
さりげない、ボディタッチ。
完全に権力を振りかざした行動だ。
気がつくと僕は視野内の“密っこくん!”アイコンを呼び出そうとしていた。
「おや、サルくん。どうしたんだいキョロキョロして」
「ひっ!」
獅雷さんが笑顔のまま近づいてくる。
(おまえ“密っこくん!”使おうとしただろ?)
(し、してません!)
「そうか! ならいいぞぉ! 頑張ろうな!」
よりいっそう爽やかに笑った。
こ、怖すぎる。
「ぅーん! ダメです! やっぱりこげないかもしれませんっ!」
小波ちゃんは、顔をあからめてペダルと格闘していた。よ、よぉし! こ、こ、今度こそ!
意を決してブースを離れようとすると、む、室津さんが近づいてきた。
そっと小波ちゃんのマシーンに寄り添い、サドルの辺りに触れ、聞いたこともないようなバリトンボイスで囁いていた。
(……アシスト、入れといたから……)
そして、フワっと席へ戻る。
室津さんが稼働中に席を立つなんて、これまで一度も……。
「あ! 漕げました! 凄い! 軽いっ!」
小波ちゃんの発電量がグングンあがっていた。
「む、室津さん!?」
「……なんだ……サル」
「も、もしかして、で、電動……」
「……なんの……ことだ……」
「完全にアシスト機能つかってますよね!? と、というか、室津さん定年退職したんじゃないんですか!?」
「サル、それは違うぞ、室津さん派遣として再入社したんだよ」
それなら、なおさら社員の僕を差し置いて、カワイイ子だけ特別に電動アシストを使っていいはずがないじゃないか!
そんなアンフェアなことをする人じゃないはずなのに。
室津さんまでもが、小波ちゃんの魅力でおかしくなっているということなのか。
これ以上、僕が出しゃばってしまったら誰かが不快になるかもしれない。奥歯を噛みしめやり過ごそう。
「みてくださいっ! ボク、昨日よりも漕げるようになりました!」
脳天気にはしゃぐ、まもるさんの声に耳を貸すものは誰もいなかった。
「だから、なんでリズムに遅れんだよ!」
「わ、わかりません」
「あーもういいや、オマエ、センスねーよ、辞めちまえ」
「そ、そんなぁ」
「やめだやめ。とにかく、午前は終わり。昼までに自主練しとけ!」
「お、親方ぁ!」
「じゃーな」
親方と呼んでいることに指摘もないままナツメさんはログアウトしていった。
途端に身体から力がぬけた。
突っ伏した頬に伝わる、だだっ広い『体育館』の床は冷たかった。
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
気晴らしに今日こそまもるさんと朝食でも食べようとしたが、姿はみあたらず、おまけに昨日まで放り出してあった日記帳もどこかへ消えていた。
「なに隠してんだよ……」
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
……っあぁ、気になる。
無理矢理、植え付けられたノイズミュージックのように脳内で機械音が鳴り続けている。
ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛ ガッ゛──
……肩。
上げ、下げ……、肩、上げ、下げ……。
あれ?
室内に備え付けられた豪奢な金縁の鏡に全身を映してみる。
肩。
で、出来てるじゃないか!?
脳内の音にあわせて肩を揺らす、ついでに鳩が餌をついばむように首を前後に揺らしてみても、完璧にリズムに乗れている。
気がする。
おかしい。
……もしかして……。
ログインするときにいつも使う
あ、ア、アバターとの
そうか……。
グラスと自分の意識との
超高級設備を使用しながら、最も自分に近い場所にある
それなら、話は早い。
新しいimaGeグラスを買えばいいだけじゃないか。
窓を開けて、息を吸い込む。
「だれか! imaGeグラス持ってませんか!」
外に向かって叫ぶと、遠くの方から声がする。
「……なぁ! だ……なぁ!」
1台のホバーカーが、後方から猛然と走り寄ってくる。
「旦那ぁ! お呼びですか!?」
蒔田アクティブ洋品店のクルマだった。
「imaGeグラス、ありますか!?」
「い、imaGeグラスっすか……そ、それは」
蒔田が顔をしかめた。
ないなら他の業者に頼むしかない。
「誰かぁー! 持ってませんかー!」
「ま、まってください! この蒔田にチャンスを!」
「ちゃ、チャンスって……」
「乗ってください!」
「え!?」
「ひとっぱしり近くの街までいって、ビシーッとくるimaGeグラスさがしやしょう!」
蒔田アクティブ洋品店のクルマが、いちばんぼしギリギリまで幅寄せしてきた。
「小波ちゃん! ボク、お昼ごちそうする!」
「そ、そんなっ、悪いですっ!」
「大丈夫、ボクお金持ちだから!」
動力室から
ま、まずい。
新人のかわいい女子が入った最初の昼休みとは、おそらく雛鳥がはじめて目を開けた瞬間に匹敵するチャンスだと思う。
新しい職場、新しい
獅雷さんや室津さんの監視をくぐりぬけ、稼働メンバーの配置をやりくりして、作り出したやっと、やっと掴んだ小波ちゃんと同じ休憩時間は、いくらまもるさんであっても邪魔させるわけにはいかない!
「あ、あの! まもるさん!」
「ん? どうしたのサルくん?」
「昨日はごちそうさまでした!」
「うむん? なにが」
「あんなに高級なシャンプーを奢っていただいて……」
なんとか、話を逸らして、昼のタイミングをずらすしかない!
「あぁ! 平気だよ! そういえばボク、髪の毛が伸びてきたんだよ!」
「たしかに、ひと晩でだいぶ伸びましたね」
「サルくんはなんともないの?」
「は、はい」
「シャンプーでそんなに、髪が伸びるんですかっ!?」
小波ちゃんのおっきな瞳がまもるさんに向いている。
「うん! まきたさんていう人が持ってきてくれたんだぁ!」
「アタシもつかってみたーい」
ま、まずい! 興味しんしんじゃないか!
「小波ちゃんも、今日、銭湯にいく!?」
だ、ダメだって! だ、ダメ……。
「銭湯があるんですかっ!? 行ってみたいですっ!」
「よーしそれじゃ田坂さんに頼もう!」
こうなったら……。
「まもるさん! 僕とマイトくんもお供してよろしいでしょうか!」
「サルくんも?」
「は、はい!」
なんとかして食い込まなければ!
「いいよ! それじゃあ、みんなで小波ちゃんの歓迎会をしよう!」
「いいんですかっ?」
「もちろんだよ! みんな人力電力のメンバーじゃない! うむん!」
あ、あなたは乗客のはずなんですが……。
「よーし! ボクがんばって今日も、もうだしょうとるぞぉ! 早くお昼ご飯たべよう!」
「はいっ!」
小波ちゃんは本当に笑っているようにみえた。あ、あんな年上に誘われているのに、いわゆる“まんざらでもない”顔というやつか……。
ぼ、僕にはあんな大胆な誘い方、到底真似できない……。
「あ! そうだ! お昼の前にいいものみせてあげるよ!」
「いいもの?」
「うん。このお部屋によっていこう」
「まもるさん? VRルームですか?」
「そう! ボクね凄いゲームやってるんだぁ!」
「げ、ゲームですか?」
「うん。TA-GOっていうゲーム」
「え! TA-GO!?」
「うん。小波ちゃん知ってる?」
「え、えっと……サルさんご存じですかっ!?」
「ふぐぅ!」
もろに、この美少女の上目遣いを喰らってしまった。だ、ダメだ。ぼ、僕には処理しきれない。
「あれ? サルくん、顔が赤くなってるよ?」
「ち、違いますよ! 気のせいですよ!」
どうしようこのままじゃ、動揺しているのがバレてしまう……なにか、話題を変えなければ……。ん?
泳ぎまくる目を車窓の外に流すと、スターダストメイツのホバーカーが1台、いちばんぼしと反対方向に向かっていくのがみえた。
「あれ? まもるさんのお連れの方では?」
「ん? あ! ハルノキくん!」
まもるさんが素早く窓に張り付いたがホバーカーはスピードを緩めず、街へと向かって去っていった。
「なんだよぉ。ハルノキくんもお昼、一緒に食べようとおもったのに……」
まもるさんが、唇を尖らせていた。
次回 11月26日掲載予定
『 いちばんぼし 20 』へつづく
「アンタ、なにいってんの? 俺、ただの更生員だぜ?」
チクリン殿は、盛り上がった髪の毛の奥に左手を差し込み頭を掻いていた。腕にかかった“特別商品開発担当”の腕章が揺れる。
「そんなことはございません。アナタはなにかが違います」
「あのぉ……これ以上問題を大きくされるのであれば、見学は中止とさせていただきます……」
派手な色のコートに身をつつんだ看守が立ちはだかった。
「それでは、ひとつだけ、教えていただけないでしょうか」
「……はぁ……なんでしょう」
「あのロボット、いえ、江照というお方は一体どんな罪を犯しあのような仕打ちを受けているのでしょうか。そこまで重大なことであったのか、理解するまでわたくしはここを動きません」
「詐欺、大規模な相場操縦的行為、商標の不正使用、人工知能の過干渉による人的迷惑防止条例違反です」
「本当ですございますか! なんという不届きな!」
看守の口から思わぬ真実が語られた。
「だからここにいるんですけど」
「言語道断、極悪の極み! 致し方ない処遇ではないですか!」
「はい。ですから」
『オマエ! 納得すんの早すぎだろ!』
「わ、わ、わたくしは、なんという思い違いをしていたのでしょう。もっと、もっと罰するべきではございませんでしょうか」
「い、いえ現場でそのような判断はできません。もう、とにかく、アナタなにしきたんですか?」
「わ、わたくしは、ヒーロースーツを譲り受けるためにここに参りました」
「………本気でおっしゃってますか?」
看守があきれたような顔をした。
「はい。わたくしは、まもるさんのようなヒーローになりたいのです!」
『ま、まもる……? おい、オマエ!』
「罪人にオマエよばわりされる覚えはございません!」
『うるせえ! 大事なことだ! まもるってよ、知井まもるのことか?』
「な、なぜ、まもるさんのお名前を」
『いや、まもるがけしかけたんだ。アシスタントプログラムとして人間の命令に従うのは当然のこと。だから俺様に罪はない!』
「たしかに! アナタは無実だ!」
「トキタくん、さっきからすぐに信じすぎじゃ……」
「純平殿、わたくしは信じることが世界を救うと思っています」
『だから俺様をここから出せ!』
「わかりました」
「いや、出せませんよ」
またしても看守が立ちはだかる。
「出せないのですか!?」
「と、トキタくん、そろそろ帰ろう……」
純平殿が不安げな面持ちでこちらを窺っていた。
「いいえ。純平殿、ご迷惑を掛けていることは申し訳ございませんが、わたくしは、ヒーローとして、ひとりの人間としてこの真意を確かめる必要がございます。看守殿、わたくしにヒーロースーツを譲ってはいただけないでしょうか」
「大変恐縮ながらアナタはヒーローには向いていらっしゃらないのでは……」
「なっ……わたくしはヒーローに向いていないのですか?」
「あのさぁ、ちょっといいかな」
じっと話に耳を傾けていたチクリン殿が口を開いた。
「この人に新しいスーツ試してもらおうぜ。いいっしょ? 悪いことはしなそうだし」
「あ、アレか……ま、まぁ、そうだな……」
「よし! じゃちょっと来てくれ! 新開発のスーツ渡すから。アンタきっと似合うぜ!」
怖じ気づいたように言葉をつまらせる看守を尻目に、チクリン殿が手招きした。
「かしこまりました! 戸北リョウスケ、精一杯やらせていただきます!」
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