河内製作所 小さなことを、ていねいに、じっくりと、考えていく
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第96話『 ハッピーストライク01 』

『ハルキ』
misaの音声こえが聞こえる。夢か? 目を開くのも面倒くさい。
『情けなすぎる。タバコ1本吸って意識飛ぶって、ウソでしょ?』
そうか、タバコの煙を吸い込ん……………ん?
後頭部が妙に温かい。
でも、枕にしては柔らかい。
低反発という素材はこれほどまでに安らぎをくれるのか。
「気がついた?」
眉間の間にひんやりとする感触。
反射的に目が開く。
「chibusaさっ!? んっ」
白く細い指先とchibusaさんの顔が一瞬だけ視界に入った直後、ボフっという音と共に視界はふさがれ、柔らかい物体に押し返されて後頭部は、ぬくぬくした場所へ再着地した。
眼前に広がる、丸みを帯びた双頭の山……こ、これは、chibusaさんの……。
「もう少しだけ、横になってたら?」
身体中から力が抜けた。
……意識がコントロールする部分は。
だが、抗いがたく一部だけ、弛緩する意識下のコントロールを振り切り、この安ぎの状況へ反旗を翻そうとする。
だめだ、落ち着け、落ち着くんだ。も、もし、一部の部位の変化がバレてしまったら、女性の優しさにつけ込む変態だ……。なにか、別のことを考えろ……。
“はい。3名様もっこり”
脳よ! なぜに、この局面で鮮烈に適切な連想を呼び起こす?
『ハルキ、アンタいまもの凄い体勢になってるわよ……chibusaさんの膝の上に頭のせて顔面は……』
misaは脳内音声ダイレクトで解説しはじめる。
『バウンスアーティストのバウンスをダイレクトに体感できるポジションにいるわよ』
やめてくれ。意識が、甘美な球体に向いてしまう──ダメだ、ダメだ! ダメ、だ────

!!☆♪!!凸!!☆!!♪

……った……我が“分身”は意識の制御を振り切り……強度と体積を何倍にも膨張させ、衣服の繊維を局地的に押し上げた。
「なによ、ソワソワして……あらっ、フフフ。そういうこと?」
顔は見えないが、chibusaさんの声は自分の足元の方へ、あ、ある意味では“自分”に向かって話しかけているのがわかる。
き、気づかれた……。
「お腹、冷えるから毛布掛けとこうね」
しかし、chibusaさんは身体をこわばらせることも悲鳴をあげることもなく、腕を伸ばし毛布を引き寄せるだけだった。
下腹部に、毛布の感触。ほのかに温かい。
「いや、その……こ、これは」
「むしろ、なんにも反応しなかったら、ちょっとムカつくけど。もしかしてアタシの膝の上じゃ不満?」
「め、めっそうもございません!」
「それとも、もっとスゴイことしたい?」
「め、め、めっそうも!」
「冗談よ」
chibusaさんが微かな笑い声と、ライターの開く音がした。
「そ、そうすか……」
「ほら、期待してるんじゃない」
芳ばしい煙のにおいが漂ってくる。
「い、いや、そういうことではなく!」
「やっぱり面白いわねアナタ。いちいちアタシのいうことに反応してくれちゃって。疲れない? そんなに他人のこと気にしてたら?」
「べ、別に、顔色をうかがってるとかそういうわけでは……」
「だって、タバコ吸ったことないでしょ?」
「え? や、あ、あるっす!」
「いいよ。普段吸ってる人、タバコ吸って倒れたりしないから」
た、確かに。
「まあ、はじめてなのにあんだけ、急激に吸い込んだらクラクラするって」
煙を吐く音に混じる笑い声。
「でもね、なんだか嬉しかった。ありがと」
「え、自分、お礼を言われるようなことは」
むしろこんな体勢で介抱されているこちらが感謝をしなければいけないのではないか。
chibusaさんの手が額に触れた。冷たくて白い手だった。
「そろそろ起きれる? それとも、ホントにもっとスゴイことしちゃう?」
「や、そそんな!」
身体を横にずらし、無理矢理身体良を起こす。
「やっぱり、マジメね。じゃ、アナタがホントにタバコ吸いたくなったら、また一緒にタバコ吸いましょ」
口の端をわずかに吊り上げたchibusaさんが天井に向かって煙を吹いた。
「じゃ、じゃあ、自分、もっとマシなタバコとライター用意しときます!」
「なんで?」
「こんな安っぽいライターじゃ、かっこわるいじゃないですか! た、タバコもインチキみたいなやつだし……」
「いいと思うけど、別に」
「もっと、イカしたライターでchibusaさんに火を点けたいんです!」
「そう? まあ自分が納得できる選択をするのは大切ね。確かに」
「はい!」
「あ、でも、これはなかなかだったわよ」
chibusaさんがPARKの箱を摘まみあげる。
「“雑踏の苦み”って感じ」
顔面全体で笑ってPARKを投げてきた。
「今日は、アタシひとりで街を探検してくるから、棚田くんによろしくいっといて」
それだけ言い残し、chibusaさんはベッドから出て行った。

「おねがいしまっぁっす! ヤラせてくださっぁっぃ!」
カウンターの奥でノゾミちゃんがもの凄い視線をコージくんに突き刺すのがわかった。そうだよね、このラウンジで下品なこと叫んでるヤツがいたらそりゃあ、ムッとするよね。
「ちょっと、コージくん、声、大きいよ」
「どうしても、ヤリたいんでっぇす! 棚田さん、お願いしまっぁす!」
コージくんが制止不能な速度で床へ突っ伏す。
「いや、ダメ……、……無理ぃ……」
「許可してくださっぁい!」
Lounge310の豪奢な絨毯にひれ伏した背中を無性に踏みつけたくなる。
なんなの!? 今日。
ナンプラもラジオで暴走、コージくんは帰ってくるなり土下座。僕、もう眠いんだって。
「ナンプラ先生っを、男にしたいでっぇす!」
「棚田さん、ソイツ、つまみ出しますか?」
ノゾミちゃんが氷みたいな声を絞りだす。このソファからだとカウンターに隠れてみえないけど、右手になんか尖った危ない物やよく切れる物騒な物とかを握りしめてそうな顔だ。
「う、うん、ま、まあ、ちょっと待って。ね、ねえコージくん? わかったから、ちょ、ちょっと、いっかいちゃんと座ろう」
「はっぁっぃ!」
けろっと顔を上げ、コージくんの瞳が輝く。
「ありがとうございまっぁす!」
「いや、許可したわけじゃないから」
対面のソファに座り背筋を伸ばす姿にちょっとイラっとした。
ダメだ冷静にならなきゃ。
「コージくんさ。今日のトックトックプレスのせいで大変なことになってるの知ってる?」
「そうなんですかっぁ?」
「うん。かなり。でね、そんな状況でそんな企画の許可できるわけないんだよね」
「しかしっぃ、ナンプラ先生の熱い想いをリスナーにも届けるべきでっぇす!」
「ねえ、ノゾミちゃん……」
そっとカウンターを窺うとノゾミちゃんが目だけで返事をした。いや、僕にまでそんな怒らないでくれないかなぁ。
「ちょ、ちょっとさ、エアロヴィにTMRティーエムアールの様子を映してくれない?」
ノゾミちゃんはひと言も喋らず、鼻くそでも弾きとばすような仕草で空中へディスプレイを投影した。
「みえるかな? コージくん」
「こ、この人っぉ!? 昨日のぉっ! な、なんですかっぁ! こ、これはっぁ!?」
ディスプレイに気づいた瞬間、コージくんの顔色が変わった。そりゃそうだよね。
「うん、ちょっと揉めちゃって、TMRに沈めちゃった」
もずくを彷彿とさせていた豊川の髪の毛は、ドブ川のような色をした深緑の水溶液に満ちたタンクの中で、まさに海藻のようにゆらゆらと揺らめき立っていた。

どこだ! どこだ!?
トックトックセントラルタワーモールの案内板を、視線で掻き回すように見渡しているが見つからない。
“トックトック 総合喫煙館 24H”、そんなことはどうでもいい。いま必要なのは……あった!
“本館10階 喫煙具メンズ”の文字。
ここだ! ここしかない!
正午に近づき人の往来の増えた1階フロアを走り抜けエスカレーターに飛び乗る。
上昇していくのに比例し店内の様相は貧富の格差を描くグラデーションのように高級な雰囲気が上塗りされていく。
「いらっしゃいませ」
10階フロアへ足を踏みいれた途端、エスカレーターの傍で控えていた男が頭を下げた。監視されていたような気分になるが、気にするな。
このハイソサエティな空間は、chibusaさんのような女性と並びたつために必要な試練。
「あ、あのぉ」
「はい」
喰い気味に返事をしてくる店員。適当にあしらおうとしているのかもしれない。
「ら、ライターが欲しいんですが」
「ありがとうございます。御用途は?」
「よ、用途……あ、あの、素敵な女性に、アピールしたいんです」
「は……ぁ…?」
「その、タバコを吸うための……」
「ええ。ですからどのような、おタバコをお召しになられるのでしょうか?」
た、タバコの種類……?
「PARKっていうタバコなんですけど」
「ぱっ……パーク。そ……そちらは、紙巻きのタバコでしょうか?」
「そうです。紙で巻いてあります」
「かしこまりました。紙巻き用のライターとなりますとお客様ぐらいのご年齢であればこういったオイルライターなどが自然でよろしいかと」
手元の陳列ケースから銀色のライターが取り出される。男の手に嵌まった純白の手袋が眩しい。
白い手先が丁寧に掴むのはナンプラが持っていた銀色のライターと同じタイプだった。
店員さんが蓋を親指の腹で持ちあげると音もなくライターの内部がむき出しになった。
「え、あれ? 音は?」
「お、音でございますか? こちらは開閉がスムーズかつ静音なのが持ち味でございます」
「いや、音しないと困るっす。キーンとかカキーンって音するライターないっすか?」
「開閉音の保証を行っている商品というのはどのメーカー様も……」
「や、でも知り合いが持ってるライター全部いい音がしてましたよ」
「もちろん、開閉音がする商品というのもございますが、それらは偶然の産物でございまして、本来の機能では……」
「じゃ、なんかインパクトのあるライターってないっすか?」
「い、インパクト、でございますか……」
「なんかドーンと目立つ……あ! それ! あそこにあるヤツみたいなの!」
男の背後の陳列棚に目が惹き寄せられた。
「あ、あちらは……」
「あれ、見せてください!」
「は、はぁ」
喫煙経験がなくてもわかる。
あんなの誰も持ってない!
店員は指定したライターを抱え戻ってきた。
「お、お客様、こ、こちらは」
目の前に置かれたライターを自分で持ちあげてみる。紙の本が主流だったころ1度だけ手に持ったことのある“百科事典”と同じくらいのサイズと重量感。なんて迫力だ……。
涼やかな光を放つ表面は氷のように冷たい。
店内の冷房の冷気をこの大きなボディ全体で受け止めているせいだろう。
なんという清涼感。夏場にピッタリだ。
これほどまでに重厚で機能的なライター、みたことがない。
「これならインパクトありますよね!」
「そ、ちらは、展示用で……」
「ちょっと、蓋、開けてみていいっすか?」
店員の返事を待たず、左腕で抱えるようにボディを挟み、右手の平全体で蓋を押し上げた。

ゴッシャンッ

自転車のスタンドを蹴り上げた時のような、無骨で豪快な金属音が脳髄に響く。
こ、これこそ、唯一無二の開閉音じゃなかろうか。間違いない。これだ。これしかない。
「これ、売ってください!」
「ですから、非売品でございまして……」
「じゃ、じゃあ、タダでください!」
「び、備品は……しょ、少々お待ちください」
ハンカチで汗をふきながら店員が奥にいた熊のような巨体をした店員を呼び止め話かけた。
もうひとりの店員が軽く頷き口元を素早く“わかった”と動かし、こちらへ振り返った。
近づいてきた熊のような店員の胸元には“店長”と書かれた名札。
「いらっしゃいませ! お客様。そちらのモスト エクストラ ブリタニカルライターをご所望とうかがいましたが……」
なんだ、ちゃんと商品名があるんじゃないか。さっきの店員さんは新人さんなんだろう。
「はい。自分、ピピッときました!」
「そこまで、おっしゃるのであれば……少々、お値段は張りますがよろしいですか?」
店長は揉み手しながら微笑んだ。
「分割にしてもらえるなら支払えます!」
「かしこまりました。お承りいたします」

ゴッシャンッ!

店長が返事をした瞬間、脳内でライターの開閉音が鳴り響いた気がした。まるで未来を祝福する鐘のように。

次回 2019年07月05日掲載予定
『 ハッピーストライク 02 』へつづく







ピピピピ……
ジュピィィィグジュッ
ピピピピ……
ンゴォォォォォォォォォォォォォッォォジュピッ
ピピピピ……
ジュピィィィグジュッ
ピピピピ……
ンゴォォォォォォォォォォォォォッォォジュピッ
やかましいクセに、妙に規則正しいイビキなのがはらただしい。そして、シートベルトをしないこの人のせいで、シートベルトセンサーが作動し警告音も鳴り止まない。
ひと晩じゅう神経を尖らせてクタクタなのに。
「蒔田さん。いい加減、起きてください!」
ピピピピ……
ンゴッ……ゴォォォォォォォォォッォォジュピッ
ダメだ。本来助手席とは運転手を補佐するための役割を担う“助手”のための席として用意されているのではないのか。自動運転が世に広まって久しい。そんな言葉はもう死語なのか!
「にしてもさ……」
鬱蒼と茂る木々、切り立った岩山。曲がりくねった道。車窓の外に広がる景色に背筋が冷えた。深夜ぶっ通しでこんな道を手動運転してよく事故らなかったものだ。少しだけ自分を褒めてやりたくなるけど……ボンネットへ目線が及ぶとそんな気持ちはどこかへ吹き飛んでしまう。
「あれさえ、無ければな──あっ!!」
思わずブレーキを踏みしめた。
ンゴッ─と寝息を残し、蒔田さんがフロントガラスに向かって一直線に射出された。
かなり鈍い音がしたけど、フロントガラスは割れてない。
よかった。
「え、江田くん……ちょっと起こし方……乱暴すぎないか?」
こちらの額も割れていないようだ。
よかった。
これ以上、この車体にトラブルを増やすわけにはいかない。
「シートベルトしてないからですよ」
「ベ、ベルトがなくても、安全な運転するのが基本じゃないか! なに、急ブレーキなんて前時代的なことしてるの!」
「だ、だってあんな所に車が」
「車ぁ?」
切り立った岩山の片隅に設けられた駐車スペースに年代物の軽トラックが駐車していた。
「なんだってあんなところに……なんだ!? どこだ! ここ!? いつの間にこんなへんぴなところに迷い込んだんだ!」
あなたが寝てる間にだよ。
「江田くん、運転が好きだったんだなあ。こんな危険な道をドライブしちゃうんだからなぁ。この旅もまんざらムダでもないかもしれないな」
「好きでこんなことしてるわけじゃないんですよ。しょうがないじゃないですか、あれ、剥がれないんですから!」
蒔田さんがのっそり、ボンネットの方を向く。
「またその話か……」
なにを偉そうに。
「江田くんが、早くなんとかする方法を調べないからじゃないか」
「色んな方法ためしたじゃないですか!」
前方の軽トラックの手前、この車のボンネットに輝くピンク色の丸い物体。スターダストメイツステッカーが剥がれない限りこの旅は終わらない。
「蒔田さんこそ、なにか考えてくださいよ! あの社長をなんとか説得するとか!」
「あの人は、無理だろう。あのサングラスの奥でどんな目してるか見当もつかないだろう?」
「じゃあ、どうするんですか? レンタカーの返却、受け付けてもらえないんですよ? あのステッカーのせいで。延滞金もガンガン増えてくんですよ?」
これほどまでに無責任で無思慮な上司と、なにが哀しくてひと夏ドライブ旅を続ける羽目になったのだろうか。
「そ、それよりあの車、なにかトラブルに遭遇しているかもしれない! いってみよう!」
「や、待ってくださいよ、そうやって逃げるんじゃないですか!」
いちもくさんに軽トラックへ向かった蒔田さんを追う。さっきまで眠っていたとは思えないほど軽快に走り寄る蒔田さんが停車した軽トラックに辿りつくと中から頭にタオルを巻いた青年が降りてきた。
「よう! 青年! どうした!」
蒔田さんはまるで町内にひとりは生息している迷惑親父のようなテンションで話しかけていく。
あの人には“警戒心”とかそういう類いのセンサーは一切搭載されていないのだろう。
「こんな山奥でトラック止めて! んん、ずいぶんとボロい車だなぁおい」
ワードセンスに対する配慮もまるでない。
それに対し、軽トラックの運転手は警戒心センサーを作動させたのか小さく頷くだけだった。
「あれだな! じいちゃんのトラックで、夏休みひとり旅ってやつだな! そうだろ?」
「やっ、違うっす」
「じゃあ、どうしたんだ? いってみろよ、遠慮するな! チャンスの女神は前髪しかないんだぞ!」
「いやぁ、ちょっとやらかしちゃって、バッテリー上がっちゃったんすよね」
「バッテリー!? いまどきバッテリーが上がるって、どんだけ古い車だ? おいおい」
「村の偉い人の車なんすけど、ヤバイいんすよね、この荷台に電気戻さないと」
「そりゃ困ったなぁ」
「オレ、昨日ここに車とめてライト点けっぱなしで寝ちゃったんすよ、まいりましたよね」
青年が笑った。
なぜ、あの人は出会って数秒で心の扉をいとも簡単に開けられるのだろうか。
「あーそれじゃダメだなバッテリー充電しないと……でもなぁこの辺じゃ修理呼べねえもんなぁ」
「あの、もし良かったらなんすけど、その車でちょっとだけバッテリー充電させて貰えないっすかね」
「ん? あー、オレの車?」
「はい」
正確にはあんたが借りて返せない車だ。
「そうかぁ、バッテリーか。充電するために車動かすのもタダじゃないからなぁ」
まさか、この人はこの局面で困っている人からも金をふんだくろうと……。
「いや、蒔田さん、さすがにお金は……」
「青年! キミ名前はなんていうんだ?」
「あ、自分、友煎トモイリっす」
「うんトモイリくん。トモイリくん、お金持って……ないよなぁ、なんせ貧乏旅行の真っ最中だもんなぁ」
蒔田さんがばしばし、トモイリという青年の肩を叩いた。なんという失礼な態度なんだ。
「や、金はあるんすよ。自分、別に貧乏旅行してるわけじゃないんで」
「……っえ?」
蒔田さんは下品な彫像のような体勢で動きをとめた。
「いくらぐらいっすか? 2、30万なら現金でもってますけど」
「だ、だ……だ……」
「いや、マジでまずいんすよねー、早いとこ電源戻さないと」
そう言って、トモイリは尻ポケットから長財布を取り出した。財布はパンパンに膨らんでいる。
「なんとかなんないっすかね?」
財布の口が開く。びっしりとつまった、紙幣の縁がみえた。
「だ、旦那ぁ! 水くせぇでげすよぉ!」
でた。
「この蒔田に、なんっなりとおまかせくだせぇ! あっし、ちょっくらテメエの車から道具とってきまさぁ!」
えげつないほどペロンと手の平を返し蒔田さんは、揉み手で中腰のまま走り出した。






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